ハミンと僕の3年間の記憶

韓国人の彼女ハミンと、僕との間の3年間に渡る恋の物語です。 内容は全て実話です。 ハミンとの出会いから、僕の交通事故、ハミンがイギリスへと旅立ち離れ離れになった1年間、そして韓国で別れをするまでの僕の恋を描いています。

(5/17) 雪と旅

2月上旬のある日、東京では大雪となった。
天気予報の通り、東京は朝から大粒の雪が降り、ハミンは興奮したままに僕にメッセージを送ってきた。メッセージの内容からすぐに雪にはしゃいでいるハミンの姿が目に浮かぶ。
急遽この大雪の日にハミンに会うことになった。
電車も運休が続き、多くの人がいち早く家に帰ろうとするなか、僕らはこの雪の日に新宿で待ち合わせをした。
お互いダイヤが乱れて大幅に遅れての到着となった。当然のことながら待つのはいつも僕だ。ハミンはニコニコしながら遅れて到着するのが毎回の恒例となっている。
外はもう大雪だ。そんななか2人は遅くまでワインを飲みながらほろ酔い気分。
新宿駅に戻る途中も雪はいっこうに止む気配がなく、この時間に外を歩いている人なんて見当たらない。
高島屋前はもう真っ白で、階段かどうかわからないくらい雪が積もっている。
そうして駅に向かう途中、いきなりハミンは僕に雪をかけてきた。彼女は遊びで雪をかけたりしない。本気だ。ニコニコしながら、そういう一面がある女の子なのだ。手加減なんてしない。
ハミンはどんどん雪を投げてくる。ハミンは一切手加減しない。
さすがに僕も反撃を開始。
2人とも雪まみれになり、そして豪快に転ぶ。子供のように喜び、本気で相手を困らせる女の子ハミン。
僕はハミンと一緒にいて退屈だなんて思うことは一切なかった。一緒にいることに飽きる暇すらなかったのだ。

そんな大雪の次の週末。なんとこの日も東京は大雪との予報が。
もともと予定していたはじめての旅行で、行き先は近場の三浦半島
旅館で温泉入ってのんびり1泊して、横浜で遊んで帰ってくる予定だった。
前日になっても天気予報が変わる気配はなかった。
僕はハミンとドライブもしたくて、金曜の夜には千葉の実家に帰って、翌朝は親の車で東京まで来ることにしていた。
親に、「本当にこんな雪の中大丈夫?」なんて言われて、僕も不安ではあるが、車で旅行に行きたい一心でおもいきって東京へ車を走らせる。が、やはりこんな大雪の中なので、車が動かない。
途中で引き返して、結局電車で行くことに。すごすご車で戻る僕に母親は「だからそう言ったじゃん」とカンカンだ。

予定を変更してハミンとは品川駅で待ち合わせ。
外はものすごい雪の中、電車に乗って僕らの旅がはじまった。もう一面真っ白。こんなタイミングで旅行に行くなんて普通はないかもしれない。
三崎口駅に到着し、予定のバス停に行くもダイヤも乱れてしばらく来そうにない。
大雪の中、なんとかタクシーを見つけ宿に到着。もう仲居のおばちゃんたちは大喜びだ。聞けば、この大雪でみなキャンセルをして、僕らともう1組しかお客がいないようだ。
普通ではない日に旅行に来た僕ら。なんだか普通とは違う旅行になりそうだ。僕らはこの吹雪のなか、温泉に入ってゆっくりして食事をした。
夜は部屋でゆっくり過ごす、予定だった。というのも、部屋が全然暖かくならず、この大雪で空調が一部故障したようでエアコンが効かない。
TVからは停電情報が続々と。すぐ隣の町も停電の様子。
僕らは旅館の方がもってきてくれた2つの簡易ヒーターで布団にくるまりながら夜を過ごす。寒い。すぐそばまでの停電情報もあり、僕らは不安な夜を過ごすこととなった。
夜が更け、翌日は快晴だった。
晴れた天気のなかで見渡す海、そして辺り一面に残る雪はきれいだった。きっと、この日に旅行に来ている僕らしかみることができない景色だろう。
普通ではないから楽しいのだ。僕にとっては、いつも刺激的なハミンとの時間もまさに同じだった。

その後もハミンは仕事が忙しい日々が続いていた。
僕自身も退職する業務の引継ぎ、コウヘイと行っていたサイト閉鎖、閉鎖に伴い旅館のおばちゃんたちへの報告やお礼など、忙しい日々を送った。
僕は退職してから次の会社に入るまでの数日は、父親と一緒に旅行に出かけた。旅行先は屋久島。親と一緒に旅行にするのも十数年ぶりで、お互い大人同士としては、はじめての旅行だ。
実を言うと、最初は父親との旅行を考えていたわけではなかった。ハミンと一緒に行きたいと思い、誘っていたが、どうしても仕事が忙しくて休みがとれないとのこと。
そうしたなかで、父親を誘ったのだ。父親にはもちろんそんなことは伝えずに、いつもの感謝の気持ちというふうにして誘った。何も知らない父親は喜んで一緒に行ってくれた。
3泊4日、男2人の旅行も良いものだ。早朝から屋久杉を見に行ったり、一緒に桜島の温泉に入ったり、ヨットに乗ったり。なんだか普段できない経験ができ、僕はまた東京に戻ってきた。

(4/17) 悩み

実は、僕も僕でこの頃はいろんなことが起こった時期でもあった。
僕がコウヘイと一緒に住んでいたのにも理由があって、仕事の合間に2人で小さい事業を始めていたのだ。
ちょうどオリンピックの候補地が東京に決まったタイミングであり、僕らは海外に向けて何かできないかと考え、海外からの旅行者を対象に都内の旅館を紹介する予約サイトをつくっていた。
営業まわりは僕が、サイトの開発はコウヘイが分担して行っていた。
そうして運営をしてみると他にあまりやっているところもないようで、どんどんと海外のお客さんからの利用が増えてきた。
これまで海外のお客さんの受け入れをあまりしてこなかった旅館のおばちゃんらが、僕らのサイトを信頼してくれたことで、お客さんがどんどん増えてくる。海外のお客さんが増えてくると、いろんな問題も同時にどんどん増えてくる。旅館のおばちゃんたちには問題があったら僕に連絡をしてくださいと伝えているので、英語の話せない彼女らからは、ひっきりなしに電話がかかってくる。それは普段、会社で仕事をしているときにもどんどんかかってくる。
もう毎日が必死だった。トラブルがあれば会社の仕事を早めに切り上げて、そのまま旅館に駆けつけてお客さんの対応。
その後の宿泊予定の海外のお客さんからの質問に立て続けにメールで回答して、その後はハミンに会う。毎日がそんな感じ。
年末も夜10時まで旅館のおばちゃんらと電話をし、元日もおばちゃんからの電話で起きる。もう毎日が嵐のような日であり、大変だが楽しい。
僕とコウヘイは事業の楽しさにどんどんハマっていった。

ただ、そうしているうちに僕は事業の将来についてもいろいろと考えるようにもなっていた。このままの状態では会社で働きつつ、今の事業をやっていくのはなかなか難しくなる。
同時に自分たちの事業一本にするには、まだまだ不安なところもあるのも事実。
僕らは試しにこうした事業をやってみたが、時代のニーズにもマッチし、小さい規模ではあるが、うまく回せるようになってきた。
ただ、僕とコウヘイがやりたいのはもっと大きな事業でもあった。
いろいろと考えた結果、僕とコウヘイは今の2人の事業を一旦終わりにすることにした。
そして、将来的には2人でもう一度大きな事業をめざせるように、お互い今働いている会社を辞めて、旅行の業界の会社にそれぞれ入ることにした。そこで業界についても学んで、また2人で集まって事業をしようというふうに考えた。
ということで、2人ともサイトを閉じることにし、転職をすることにした。そう決めたのが1月3日のことだった。
そうと決まったら行動はすぐに、僕は気になった会社1社に連絡をし、1月7日にはその会社と面談。
自分がやっていた事業を話して盛り上がると、なんとその場で内定をいただく。
いろいろ考えた結果、その会社でお世話になることに決めた。

そこからなかなか大変で、勤めていた会社の社長には自分自身お世話になった気持ちが強く、なかなか切り出せない。
勇気を振り絞って切り出し、退職届を出すも、なかなか受け取ってくれない。60歳を超える社長は僕にとって、師匠であり、親父のような存在であり、恩人である。僕だって、お世話になった方に退職の話をするのは、なかなか勇気がいる。
次の日も勇気を振り絞って退職の話をした。
そうするとなんと驚くことに、会社から子会社を作るのでそこの社長をやっても大丈夫だという話までもらった。
僕は当時26歳。正直近い将来には自分で事業をつくりたいと思っている。ものすごく良い話をもらったこともあり、人生で最も大きな決断でもあり、悩む。

あまりハミンには伝えないようにしていたが、僕が悩んでいるのが伝わったのかもしれない。ハミンは僕に何か悩んでいることがあるか聞いてきてくれた。
僕も彼女に隠し事をするつもりなんて一切ない。全てを打ち明け、コウヘイとやっている事業を畳む予定であること、数年先にもう一度コウヘイと一緒に事業をつくりたいと思っていること、次に働く予定の会社のこと、今の会社でこの先経験できないかもしれない機会をもらったこと。
ハミンは僕の悩み全てを聞いてくれた。その上でただ一言「自分が1番良いと思う判断をしてみてね。きっともう自分の中に答えはあるはずだから。」
シンプルなその言葉は僕の迷いを消し、僕は次の会社にお世話になることにした。
自分の心の中では前に進んでいる。その気持ちを大切にしようと思った。そう、素直になれば自分のなかでもう全て決まっているのだ。
ということで、僕のこれからが決まった。

(3/17) 深まる気持ち

23日の祝日もデートへ。
付き合ってからはじめてのデートは六本木へ。六本木駅で待ち合わせをして、ミッドタウンのイルミネーションを観に行って、ご飯食べる。ベタなデートではあるけれどこれも面白い。
ハミンと一緒にいる時間が楽しいからだ。
実は、彼女が韓国人であることで文化的な違いに少し臆病になっていた自分であったが、そんなの関係なくなってきた。
他の女の子と変わらない、ごく普通の子だ。違うところがあるとすれば、それは国籍ではなくて、とにかくよく笑うところだ。目がなくなるくらいまで笑う子だ。

次に会うのもまた2日後のクリスマス。なかなか忙しい日々だ。
コウヘイの彼女が僕にこっそり教えてくれたのだが、付き合ってすぐのクリスマスにハミンは相当気合を入れているようだ。だから僕もしっかり準備した方がいいよ、との言葉をもらう。
ロマンチックなことが苦手な僕の性格を知っているようで、事前に情報を教えてくれたのだ。
その話を聞いてからは、そのまま新宿伊勢丹へ。
ハミンへのプレゼントには何が良いのだろう。
いろいろ考えた挙句、普段から使ってもらえるものが1番だ。ということでネックレスを探しに。
丁寧に相談にのってくれる店員のお姉さんは、親切にも1つ1つネックレスを着けてくれ、アドバイスをくれた。センスのない僕にはありがたい。
そうして選んだネックレスを買って、あとはクリスマスの日に渡すだけだ。

まだまだクリスマスの準備は終わらない。
21日に付き合って、25日のクリスマス。急遽決まったからこそ僕は大慌てだ。幸運にも、場所は丸ビル、東京駅が見えるレストランの予約をすることができた。一安心。
クリスマスは男にとってなかなか大変な日だ。店選びにミスは許されないのだ。

東京駅でハミンと待ち合わせをして、歩いてすぐの丸ビルへ。
店に入ると、付き合って4日目の僕らとは違って、付き合い歴が僕らよりベテランのカップルばかりだ。
まだまだフレッシュな2人で食事を楽しんで、プレゼント交換。ハミンも僕のプレゼントに喜んでくれたようだ。
ハミンは僕のために一生懸命セーターを選んでくれたようで、その気持ちがありがたかった。

食事のあとには、お店の人に写真撮影をお願いすると、完璧に撮ってくれた。
が、なんだか2人は硬い表情。そうだ付き合ったばかりでまだまだのようだ。
その日も高田馬場まで見送りにいって、お別れ。
お互い最高のクリスマスになったようだ。
正直なところ、僕はいつもお別れをしてから電車のなかでその日のハミンとの時間を思い出しながら幸せに浸る。
ただ、他の人から見たらきっと気持ちが悪いことだろうな。

クリスマスの次の日はお互い仕事。
ハミンは空間デザイナーとして仕事をしていて、なかなか忙しい。特に年末に向けて12月はずっと忙しいようだ。
僕の方はというと、ずっと深夜まで仕事をし続けてきた日々も終わり、生活リズムもけっこう落ち着いている。
20時になれば仕事も終わっている。
そんななか、夕方にはハミンから今日会えるかどうかのメッセージが。
ということで、この日もハミンと会うことに。
場所はハミンの会社がある恵比寿。
22時頃にハミンが到着。2人でガーデンプレイスのイルミネーションをみながら、一緒にいる時間を楽しむ。
僕らはそこではじめてのキスをした。ハミンは恥ずかしさもあって顔が真っ赤に。
記念すべき夜になった。
またしても高田馬場まで送る僕。ぎこちなさもなくなり、どんどん距離が近づいてくる。

韓国人と付き合うことに少し身構えている僕であったが、ハミンはなんだか自然体だった。
僕が想像していた韓国人の女の子の付き合い方というのをしないらしい。いたって普通で、毎日30通メッセージを送らないといけないということはないようだ。(笑)
僕は最初、毎日愛してるとか言わないといけないとか、メールはすぐに返さないといけないとか、そういうよく聞く韓国の女の子との付き合い方に心配していた部分があった。
結局ハミンは普通の女の子と変わらず、こちらも自然体でいれた。


まだまだ年末も会うことに。
なんだか2日に1回はデートしているようだが、これがすごく楽しいのだ。恋愛の楽しさにどんどんハマってきた。
お互い付き合った人は過去にももちろんいるが、ここまで毎日ドキドキする付き合いをするのは、僕ははじめてだ。実はハミンもそうらしい。
その日は2人で東京タワーへデート。
東京の夜景にうっとりする2人。うーん、よいカップルになってきた。
年末が近づいていることもあり、東京タワーの展望台のなかではラジオ生放送が。聞いてみると、曲のリクエストを受け付けているようだ。
ハミンと2人でリクエスト曲を出してみることに。
紙にはリストアップされた曲が全部で100曲。
お互い隠しながら、選んでみる。僕はハミンがどんな曲を聞くのかも知らないし、日本の曲をどこまで知っているのかすらも知らない。
100曲のなかでお互いの曲が当たることなんてほぼないだろう。
お互い、紙をスタッフの方に渡して外を眺めていると、なんといきなり僕のメッセージが読み上げられている。まさか自分のものが読み上げられるとは思わずにいた僕は、嬉しいというよりもすごく恥ずかしい気持ちだった。
と、次に読み上げられたメッセージではハミンが照れている。次に読み上げられたのはハミンが書いた内容だった。
しかも、「翔太〜、大好きです〜!」なんていうメッセージまで。
嬉しい。が、これは恥ずかしい。
そして流れてくる曲はGREEEENの「愛唄」。なんという偶然であり奇跡。
2人が選んだ曲は同じだった。
お互い照れながら、聞くことに。
なんだかすごいいいカップルに近づいてきた。僕も毎日がドキドキしている。


そうしていると、あっという間に大晦日。
僕は千葉の実家に帰り、ハミンは会社の先輩と東京でカウントダウンパーティーに行くということらしい。僕は0時になったらハミンに送れるよう、メッセージを作っていた。
そして、0時ピッタリにハミンに送った。
ハミンも同じことをしていたようで、0時ピッタリに僕もメッセージを受け取る。
考えていることは一緒だ。

次の日には、ハミンは僕の実家に来てくれることになった。
幕張まで車を走らせて、ハミンを迎えにいくことに。
実際会うのは3日ぶりくらいで、なんだか妙に久しぶりに感じる。それだけ付き合ってからはずっと一緒にいたということなのかもしれない。
そのまま海まで車を走らせて海辺を歩く。元日の夕陽がきれいだ。
ハミンを後ろからぎゅっと抱きしめ、赤い夕焼けを一緒に眺める。元旦から幸せな時間が過ぎていった。

このまま、僕の実家へ。
付き合ってまだ10日くらいしか経っていないが、実家につれてきたのは特に大きな意味があるわけではなく、ハミンにも正月気分を味わってもらいたいという気持ちが主だった。
親とも挨拶をし、すぐに父親も母親も気に入ってくれた。なんだか楽しそうに話をしている。ハミンはすぐに仲良くやれるようだ。
ハミンはデザイナーとして仕事をしていることもあって、アートには興味も強い。僕の母親は趣味で押花をやっていて、ものによっては1ヶ月位時間をかけて、一枚の画を押花で作る。
母親も、普段僕ら男に話をするよりもなんだか楽しそうだ。「ハミンちゃんこれも見て」とかいって、次から次へと母親もこれまで作った押花の画をどんどんもってくる。ハミンも「すごいですね」なんてニコニコ言うもんだから、母親も調子がよくなって止まらない。
母親に付き合わされているハミンを少し気の毒に思いながらも…、お互い楽しんでいるようでなによりだ。
一緒にご飯を食べ、我が家の猫シマジロウとも遊ぶ。シマジロウもすぐになついたようだ。
僕の家の近くは良く言えば自然に囲まれている。悪く言えば田舎だ。
田んぼまで車を走らせて、真っ暗闇のなかで2人で星を眺める。東京と違って、ここでは星がきれいに見られる。
僕は実家で正月を過ごしているけれど、ハミンはそう簡単には帰れない。きっと家族と一緒にいたい気持ちもあるんだろうなと思いながら、この日はひとりじゃない。2人で過ごす。

翌日は実家で雑煮を食べ、ハミンと僕ら家族で正月を楽しむ。
そこからは僕とハミンの2人は成田山へ初詣。
人混みの中で身動きとれなくなりながらも、2人の時間を楽しんで帰りの電車ではもうぐったり。正月から2人はなかなか忙しいようだ。

東京に帰ってから、今度はハミンと僕のルームメイトのコウヘイとコウヘイの彼女の4人で改めて新年のお祝い。
ハミンは僕らのために、韓国の正月料理をつくってくれるとのこと。
ハミンは気合を入れて新大久保で食材を大量に買い込んできた。韓国の野菜から、韓国式のお餅のようなものまで。
僕ら男は料理を手伝おうとするも、その実力のなさがバレ、戦力外となった。僕らの下手な包丁使いをみて、判断されたようだった。
力不足を感じるも、お湯をわかしたり、出来る限りのことで手伝う。僕とコウヘイの部屋なので、本来はホームのはずだが、この日ばかりは完全なアウェーだ。
料理も出来上がり、チヂミ、プルコギなど僕らでも知っている料理から、はじめて食べる料理まで。
どれもうまい。美味しそうに食べる僕らの顔をみて、ハミンもご満悦だ。

食事を終えると、ハミンによる韓国語講座がはじまった。コウヘイも韓国語を覚える気持ちがないのか、あまり興味を示さない様子。
僕も同じく、あまり覚えようとはしていない。
韓国語のできない僕らは言われるがまま。そう考えると、母国語以外で会話をさせてもらっている僕は甘えているのかもしれない。。
4人でゆっくり過ごしたあとは、どこか遊びにいこうとのことになり、田町のボウリング場へ。
そこで僕とハミンは付き合ってはじめて喧嘩をした。
その後付き合う中でももう1回喧嘩をすることになるのだが、2年間で2回のうちの1回目。
僕はコウヘイらがいるときには手を繋ぐのは少し恥ずかしかったので、しないようにしていたが、ハミンはみるみる不機嫌に。
「どうしたの」なんてのんきに聞いてみると、「なんで手を繋いでくれないの!」とのことで怒っているではないか。僕は彼女の気持ちがわからず、「だって恥ずかしいじゃん」なんて言うと、彼女はもっと怒ってしまっている。
なんだか怒らせてしまったようだ。
こういう女の子の気持ちを理解するのは苦手だ。
今となっては数少ない喧嘩の1つとして思い出となったが、ハミンの気持ちに気が付かなかった僕は大いに反省をした。
その後は、他の友達と会ってもハミンと手を繋ぐようなった。なんだか僕のキャラにも合わない気持ちはあるが、まぁそんなものだ。教訓をいかして、ハミンに合わせておくのが正解だ。

(2/17) 告白

この日から、ほぼ毎日メッセージがはじまった。1週間前の僕は想像しただろうか、こうしたやりとりを。
なんだ、恋愛って楽しいじゃないか。
僕は生き生きと、そして毎日が幸せになってきた。
僕は、1つのことしか考えられない典型的な人間で、ときにはそれしか考えられなくなる。
今回はまさにそうだ。
まだ2回しか会っていないハミンに告白することを決めた。
食事に誘ってみると、水曜日の夜が大丈夫とのことだ。
出会ってから10日目の日という猛スピードだ。

そして僕にとって、重要な水曜日がきた。
しかし朝からなんだか具合が悪い。特にお腹の調子が悪い。
時間が経つ毎にさらに体調は悪化していく。具合が悪いままなんとかお客さん企業との打ち合わせを終え、一度会社に戻ろうとするも、どんどん苦しくなってくる。
電車に乗るのも精一杯になってきた。
今日は大事な決戦の日なんだと自分に言い聞かせる。
頑張れ頑張れと自分に言い聞かせる。せっかくハミンとの食事をする日が決まって、そのときから告白に備えてきたではないか。
それがなんという状況だ。
全然力が出ないのだ。力が出ないだけでなく、変な汗も吹き出してくる。
熱があるかなんてわからない。
というか僕は普段あまり体調を崩すことはないのだ。なのに、この日だけどうしてこんな状態なんだろう。
わかることは、非常に具合が悪いということ。
そしてこれはあまり経験したことのない痛みだ。どんどんお腹が苦しくなってくる。

もうダメだ。
なんとか我慢してきたが、ここでギブアップ。
ハミンに連絡を入れて、今日は延期してもらう。大事な日を延期とは、なんとも不甲斐ない。

その日の夜は腹痛にうなされる僕。ルームメイトのコウヘイも心配してくれるが、気遣いに応えられるだけの元気すらない。
うーうー、とうなされる僕。
寝ることもできずそのまま朝を迎える。
会社にも休みの連絡を入れて、そのまま病院へ。
診断結果は急性胃腸炎
まだ重症ではない分だけ入院は免れたが、薬を飲んで家で静養しなさいとのこと。
家でゴロンゴロン。ツライ。
決戦の日だと思っていたが、その場にすら行けず、あっけなく敗北。
そして今は病人になって家で寝ているだけではないか。
2日経つと体調はだいぶ良くなってきた。まだ本調子ではないが、なんとか生活はできる。
金曜の夜にはハミンに連絡を入れてみる。
幸運にも、日曜日の夜は予定が空いているとのこと。ディナーデートに誘い出すことに成功。
よし、2回目の決戦の日は決まった。

決戦の場所は池袋。普段池袋に行かない僕は得意な場所ではない。
けれど、池袋を選んだのにも理由がある。
クリスマスも近くに迫った日、調べれば立教大学がライトアップをしているとのこと。
韓国人には多いが、ハミンもクリスチャンで、毎週日曜日の朝には教会に行っている。だからこそキリスト教系の場所として、立教大学を選んだのだ。
丸の内や表参道といった場所は人が多くてなかなか告白の場所には向かないこともあり、僕の中ではベストスポットをみつけた気持ちだった。


大切なこの日は、20分前には待ち合わせの場所へ。
ただ待ち合わせ場所がなんともわかりづらい。というか、相手を見つけづらい。池袋でものすごい人数の人がいる上に、さらにどの方面から来るのかがわからない。
相手に見つけさせてしまうなんてダメな男だ。だから僕から気づいて声をかけたい。そんな気持ちでハミンを探す。どこから来るんだろう。うーん、わからない。

「わっ」という言葉でビックリ。ハミンは僕に気づかれないように後ろからやってきて、驚かせてきたのだ。
はじけるような笑顔で登場したハミン。なんとも先制パンチをくらってしまった。
この笑顔に僕は虜にされてしまったのだ。
今日のこの日を意識している僕は、なんだかぎこちない。

サンシャインに行くことは決めていたが、それより先の夕食場所は特に決めていない。
今回は2人で決めたいと思っていたが、想像以上に良いところが見つからない。
サンシャインのなかをグルグルまわる。
やっとお店も決まって中に入るも、なんだか今日の僕は意識しすぎるあまりぎこちないのだ。
「今日は何してたの?」
「今週は忙しかった?」
そんな当たり障りのない、何も面白くないコミュニケーションしかとれない僕。
前回の楽しい会話はどこへいってしまったのだ!
お酒の力を借りようにも、ほんの数日前まで病人だった僕はその日はお酒が飲めない。
うー・・。
そうしていると固さもとれ、話もはずんできた。

ライトアップは夜10時までという事前情報を仕入れた僕は、彼女を外の散歩に誘いだす。ライトアップにハミンも興味があるようで、立教大学に向けて出発だ。
さぁ、ここからが大事。

9時を少し過ぎた頃には、立教大学の前に到着。
あれ、ライトアップがない。
ライトアップしているという情報をみていたのに・・。警備のおじさんに聞いてみるとこの日は特別に早く8時に終わってしまったとのこと。
あら・・・。
ライトアップがないことにハミンは笑っている。
僕も「あれー、おかしいな。なんでだろう。」とか言って引きつった笑いをしながら、そのまま立教大学を一緒に歩いて一周。
僕は一周歩きながら、告白するのに番良いところを探しながらで必死だ。
あの少しだけそれっぽい雰囲気のある、あの角の場所で告白をしよう。

韓国の女の子に告白するなんていう経験は僕自身なく(まぁ普通そうだろう)、ネットでいろいろ調べていた。
ネットのいろいろなところで、韓国の男は好きな女の子に何度も何度も告白すると書いてあるではないか。
というのも、韓国の女の子は一度でYesと言わないらしい。
最初は断るのが普通のようだ。
男は次に何度もトライする。そのなかでやっとYesという言葉がでるのだそうだ。
こうしてネットで調べ、韓国の男は断られても何度も告白をすることを知ってからは、僕もなんだか勇気が出てきたのだ。
僕も今回ダメでも続けて挑戦をしよう。これが最初の1回目だ、えーい。

僕は勇気を振り絞って告白した。
「最初に会った瞬間からハミンちゃんのことが好きになりました。まだ出会って日が少ししか経っていないけど、僕の気持ちはきっと変わることはありません。付き合ってください」
言ってやったぞ。
ハミンはいつもと変わらずニコニコ。ただ、ちょっと照れてるような。
あ、こんな感じで断られるのか。そう思っていると、
「よろしくお願いします」
あれ。いいの!? やったー。
この時から僕らは付き合うことになった。
12月21日、クリスマスを意識したわけではなかったけれど、結果的にクリスマスは1人で過ごすことはなくなった。

ハミンをまたいつものように高田馬場駅まで送るときには、手も繋がず、というか繋げず。
さっきまでのお互い笑いあっていた雰囲気とは違って、お互い付き合ったことでちょっと緊張。
駅でハミンを見送り、この日からハミンとの時間が始まった。


家に帰ると、ルームメイトのコウヘイには早速報告。
「おおっ!」といつも驚いたときに見せるあの感じ。機会をつくってくれたとはいえ、なんだか男2人の生活のなかで彼女の話とか出てくるのは、なんだか恥ずかしい。
コウヘイの彼女がハミンを最初に紹介してくれたから、コウヘイは僕の恩人だ。
これまで仕事の話ばかりだった僕達に少しずつ変化が出てきた。

(1/17) 出会い 

僕の彼女が日本を離れてから1年が経った。
長く想い続けた時間だった。僕はこの時間で本当の愛を知ることになる。
そして、同時に深く悩み、自分を苦しめることにもなるのだった。

人生とは川の流れのようだ。
穏やかに流れるときもあれば、僕らが気づかないうちに急な濁流に変わることもある。ゆっくりと流れていると、その先には滝で急に落ちることもある。僕たちは大きな流れの中で生きているのかもしれない。
振り返ると僕はこの3年間、この大きな流れの中にいたのかもしれない。

 

僕の彼女の名前はハミン。
彼女は韓国人だ。
まさか僕が日本人以外と付き合うことになるなんて。そして、その恋がこんなにも楽しく、長く、そして悩ませることになるなんて。当時は少しも思わなかった。

あれはもう3年も前になる。ハミンという子と出会ったのは。
3年前の12月7日。日付まで今でもはっきりと覚えている。

その時僕は26歳。
社会人3年目の後半となり、毎日が慌ただしくもやりがいある日々を送っていた。忙しいことが喜びであったし、仕事ばかりの日常で女の子と付き合おうということもあまり深く考えてもいなかった。
半年ほど前に以前の彼女と別れてから、しばらく恋愛はしなくてもいいかな、なんて思っていた。

僕は当時、コウヘイというルームメイトと一緒に住んでいた。お互い部屋は別々だが、会社の同期で1番仲が良かった。僕らはお互い会社に勤めながら、2人で事業をしていた。お互い会社もあることから、一緒に住みながら一緒に仕事をしていた。
小さいながらもこうした事業をやっていたことが、僕が恋愛に積極的にならない言い訳でもあった。

そんなとき、コウヘイの彼女と一緒に年末パーティーをやることになった。
といっても3人だけでは足りないので、コウヘイは小学校からの仲の良い友人を、コウヘイの彼女は女の子の友達を連れてくることになった。
その女の子がハミンだった。

みんなとの待ち合わせは、僕とコウヘイの家の最寄り駅にあるカフェにした。
僕とコウヘイが待ち合わせ場所のカフェに到着すると、店の中からコウヘイの彼女とハミンが現れた。僕はハミンに会った瞬間に恋に落ちた。
ケーキを買い込んで現れたハミンは、元気で、何より可愛かった。
そして僕がこの瞬間恋に落ちたのは、韓国人の女の子だった。これが僕の恋のはじまりだ。

みんなで料理をして、冬らしく鍋をして楽しんだ夜。
僕は少しでも気に入られようとテンション高めだ。
そんなとき、何気なくコウヘイがハミンに聞いた彼氏はいるのという質問。どうやらハミンには彼氏はいないようだった。
僕は心のなかでガッツポーズ。これはチャンスがあるかもしれない。
コウヘイの彼女に言っていた、今は彼女なんていらないよ、なんてかっこつけていた言葉。もうこの段階で崩れ去っていた。

そうしてみんなで楽しんでいると、ハミンの終電の時間を過ぎてしまっていたことに気がつく。当時ハミンは遠くに住んでいて、終電もだいぶ早いとのこと。
そうした状況で、僕はハミンに親切のつもりで言った「泊まっていってもいいよ」という言葉にみんなびっくり。
特に下心もなく言ったつもりではあったが、みなに勘違いされてしまったようだった。
ハミンはコウヘイの彼女の家に泊まらせてもらうとのことに。
駅まで一緒に行って、ここでお別れ。

次の日には僕は早速行動をおこす。
コウヘイとその彼女に怪しまれないように、まずは前日一緒に遊んだコウヘイの男の友達モリヤマの連絡先を聞く。その上で、コウヘイの彼女にはモリヤマの連絡先も聞いたことを伝え、ハミンの連絡先も教えてもらった。
怪しまれずにハミンの連絡先を聞けた。我ながら良い作戦だ。

そこからハミンとのメッセージがはじまった。
ハミンとのメッセージは夜まで続き、翌週には一緒に夜ご飯を食べに行くことも決定。楽しくなってきた。

1週間ぶりに会うハミンに僕はドキドキ。1週間前はコウヘイらと一緒だったが、今回は2人きりだ。
新宿駅で待ち合わせをして、僕の食通の友人がオススしたレメストランへ。
迷うことのないように、僕は少し早く着いて駅からの道まで確認しておいた。準備は完璧。
駅から現れたハミンは変わらず可愛かった。2人で会うことに少し照れているところもあるようだったけれど、僕らはすぐに2人でいることに慣れてきた。
店に到着。雰囲気は最高だ。静かすぎず、かといってうるさすぎない。

僕らははじめての2人だけの食事を楽しんで、そして飲みすぎた・・。
2人でワインボトルを2本空けるまで飲んだ。なんだかお互い緊張していた部分はあったのかもしれない。2人は軽く酔っ払い。ちょっとだけフラフラでもあった。
帰り道は距離がぐっと縮まったように思った。
僕は高田馬場駅まで彼女を見送りに、同じ電車に乗った。高田馬場は彼女の最寄り駅まで出る電車がある。
電車の揺れでバランスを崩すハミン。僕はそんな彼女をそっと支える。(決して下心はないことだけは書いておくことにする。)
自然な成り行きとはいえ、お互いちょっと照れくさい。でもお互い少しだけ、いやだいぶ酔っているから、あまり気にしないようだ。
駅でハミンとその日一緒にいてくれたことの感謝を伝え、お別れ。

終電に乗って帰るハミンを見送り、僕はまた来た道を戻る。
帰りの電車の中での自分は相当ニヤついていたに違いない。ハミンとの2人だけの時間は、想像していたよりもまたずっと楽しかった。僕は彼女の笑顔に魅了され続けた。

家に帰るとルームメイトのコウヘイがパソコンをカタカタ。エンジニアである彼にとってはいつものことだ。
僕は少し照れながら、ほろ酔いの中、少し前までハミンと一緒にいたことを伝えた。恋愛に関して僕はコウヘイとそうした話をしたことがなかった。
恥ずかしい気持ちがあったからだ。

コウヘイは驚きとともに、喜んでくれた。というのも、彼は僕が仕事にしか興味を示さないことを知っていた。
一緒に事業をやっていることもあり、僕が仕事以外の時間を作れば彼の自由な時間も同時に増えることにもなるのだ。
ただそれ以上の話は恥ずかしさもあり、コウヘイとはそこまでの話にとどめておいた。